大気中に存在できる水蒸気量は限られています。

ここで平らな水面とそれに接する空間(空気)について考えてみます。平らな水面と、雨滴のような

球形では事情が違うのですが、ここでは触れません。

水面からは運動の活発な一部の分子が水蒸気となって飛び出し、一方では空間を自由に運動している

水蒸気分子のあるものは水面に衝突し水中に取り込まれています。始めに水面に近い空間の水蒸気分子

の密度が小さければ水面に取り込まれる分子の数より水面から飛び出す分子の数の方が多くなります。

 

次第に水面に近い空間の水蒸気分子の密度が大きくなると水中に取り込まれる分子の数も多くなって

いきます。単位面積の水面を通って単位時間に出入りする水蒸気分子の数が互いに等しくなっていると

きを、水面に接する空間は水蒸気で飽和していると言います。難しい言葉では、平衡状態にあるといい

ます。飽和の説明で「大気が含み得る水蒸気量」という表現がありますが、「ある空間(体積)に存在で

きる最大の水蒸気」が正しい説明です。空間に乾燥空気がある時、窒素ガスだけの時、・・など、他の気

体の存在には無関係です。

飽和状態では水面に近い空間の水蒸気分子の密度はそれ以上には大きくなれません。単位面積の水面

から単位時間に飛び出す水蒸気分子の数は、水中で分子間の結合を振り切るために必要なエネルギーを

持つ分子の数によるため、温度で決まります。また、空中から水面に飛び込む水蒸気分子の数は、水面

近くの水蒸気分子の密度と分子運動の速度によるため、これも温度で決まります。したがって水面に接

する空間の飽和水蒸気圧、あるいは飽和水蒸気密度は温度のみで決まり、同じように固体の氷面と接す

る空気の飽和水蒸気圧または飽和水蒸気密度も定義出来ます。 

 

3.3は温度と水・氷の飽和水蒸気圧、飽和水蒸気密度を、図3.17は氷、過冷却水、水の飽和水蒸気

圧と温度の関係を示したものです。飽和水蒸気圧あるいは飽和水蒸気密度は温度の上昇に伴って増加し、

増加する割合も温度の上昇に伴って急速に大きくなります。

また、水は静かに温度を下げて行くと0℃以下になっても凍らずに過冷却状態になる場合があります。

そのため0℃以下の飽和水蒸気圧や飽和水蒸気密度は過冷却水面に対するものと氷面に対するものがあ

り(図3.17)、この両者の差が雨滴の形成に重要な役割を果たしています。

 水(氷)の飽和蒸気圧よりも小さな水蒸気圧の状態を、水(氷)に対して未飽和と言います。逆に水

(氷)の飽和蒸気圧よりも大きな水蒸気圧の状態を水(氷)に対して過飽和と言います。どちらも平衡

状態ではありません。水に対して未飽和の時は水が蒸発し、過飽和の時は水蒸気が凝結します。同じよ

うに氷に対して未飽和の時は氷が水蒸気へ昇華し、過飽和の時は水蒸気が氷のほうへ昇華します。どち

らの場合も平衡状態へ向かって進みます。水(氷)の飽和蒸気圧とは水(氷)と水蒸気との平衡状態の

水蒸気圧です。

 

 

図3.17 温度と飽和水蒸気圧(雲と雨の気象学:水野量から作図)

 

 

 図3.17から次の特徴がわかります。

飽和水蒸気圧の増加する割合は、温度が高くなると急速に大きくなる。

 このことから、温度が違う飽和した二つの空気が混合すると、混合した後の水蒸気圧はその時の温度

における飽和水蒸気圧よりも高くなります。つまり、過飽和になります。

・氷点下の温度では、水と氷の飽和水蒸気圧があり、

 (水(過冷却水)の飽和水蒸気圧)>(氷の飽和水蒸気圧)です。したがって、過冷却水は氷に対し

て過飽和の水蒸気圧を持っています。

 

表3.3 飽和水蒸気圧と飽和水蒸気密度

温度(℃

 飽和水蒸気圧(hPa)
水に対して 氷に対し

飽和水蒸気密度(10−3kgm−3水に対して    氷に対して

  40

  35

  30

  25

  20 

  15

  10

   5

   0

  −5

 −10

 −15

 −20

   73.8

   56.3

   42.4

   31.7

    23.4

    17.0

   12.3

     8.7

     6.1         6.1

     4.2         4.0

     2.9         2.6

     1.9         1.7

     1.2         1.0

        51.2

        39.7

        30.4

        23.1

        17.3

        12.8

         9.4

         6.8

         4.9          4.9

         3.4          3.3

         2.4          2.1

         1.6          1.4

         1.1          0.9

                       

 

 

 

          

 

 

 

 

 

 

 

 

 



30℃で飽和している空気と10℃で飽和している空気が混合し、20℃になった時を考えます。図3.17から

     30℃の空気の飽和水蒸気圧        42hPa

                          差 18hPa

     混合後の20℃の飽和水蒸気圧    24hPa

                          差 12hPa

     10℃の空気の飽和水蒸気圧     12hPa

30℃の空気の飽和水蒸気圧の減少分と10℃の空気の飽和水蒸気圧の増加分には

18hPa)−(12hPa)の違いがあります。

参考までに、水は飽和水蒸気圧が周囲の気圧と同じになる温度で沸騰します。普通は100℃くらいの温

度で沸騰しますが、これは100℃付近で飽和水蒸気圧が地表付近の気圧(約1000hPa)と同じになるため

で、気圧の低くなる高い山頂では100℃より低い温度で沸騰します。